法律相談事例
遺言がない場合の遺産分割方法
【質問】
先日亡くなった父の相続の手続きで悩んでいます。私はその父が残した自宅で、母と暮らしています。
他に家族としては、弟が一人います。
父は、不動産(自宅)、預金、現金のほかに株式も保有していたようですが、それらに関する遺言は見つかりませんでした。
なお、生命保険にも加入しており、その受取人は母でした。私の希望としては、自宅不動産を自分名義にしたいと考えているくらいです。どのように手続きを進めればよいのか、教えて下さい。
【回答】
まずは、相続人を確認することから始めましょう。
今回のように遺言書がない、あるいは一部の財産についての遺言がないケースでは、相続人が亡くなった方(=被相続人)の財産を相続することになります。
民法は、被相続人の配偶者と子が相続人になると定めています。配偶者と子がいる場合、財産の取り分は配偶者が2分の1、子が2分の1となります。子が複数いれば、それをさらに人数で割ることになります。このような財産が配分される割合を「法定相続分」といいます。
今回のケースを見てみましょう。質問者の方には弟さんがいらっしゃるとのことですから、法定相続分は、お母様が2分の1、質問者の方と弟さんがそれぞれ4分の1、ということになります。
相続人が判明したところで、次に、被相続人であるお父様が残された財産を確認しましょう。
ここで注意したいのは、被相続人の財産の全てが相続の対象になるわけではないということです。相続に関わらず、与えられる財産があるのです。
例えば生命保険金はその代表例です。被相続人が指定する受取人が相続人以外の任意の人であったとしても、相続人の一部であったとしても、その受取人に指定された人物が保険金を受け取ることができます。
基本的に相続財産として捉えられることのない生命保険ですが、あまりに保険金の額が大きく、保険金の受取人とそうではない相続人の間に著しい不公平が認められるような場合は、生命保険を相続財産と捉えることもありますので、注意が必要です。
今回の質問ではお母様が生命保険の受取人に指定されているようですから、上記のような例外に当てはまらなければ、相続財産は不動産(自宅)、預金、現金、株式ということになりそうです。
相続財産が判明したら、「遺産分割」という段階に入ります。
今回のように遺言書がない場合ですと、不動産や現金、株式はその名義人が亡くなる(すなわち相続が開始される)と、先に挙げた法定相続分に基づいて相続人に分配されることになります。
ただし、土地や株式といった分割できないものですと、分配が難しく、複数の相続人が共有するという状態に陥ってしまいます。それを解消するためにとられる方法がいわゆる「遺産分割」です。相続人間で話し合い(=遺産分割協議)、「誰が」「どの財産を」「どのくらい」得るかということを決めるのです。
一方、預金(正式には預金の払い戻しを請求する権利)は、法定相続分にしたがって分配されることになります。先に挙げたような共有状態には陥ることがありませんので、遺産分割協議をする必要はないのですが、実際には相続人の間で合意さえはかることができれば、遺産分割協議で取り分を決めてしまうというケースの方が多いと思われます。
話し合いの結論が出たら、書面化しておくことをお忘れなく。内容を文章化し、相続人全員の署名・実印が押されたものが「遺産分割協議書」です。作成が義務づけられているわけではありませんが、預金の払い戻しや不動産の登記名義変更等の手続きをする際など、様々な場面で役に立つことも多いため、作成しておくことをお勧めします。
質問者の方も、お母様、そして弟さんと遺産分割協議の上、遺産分割協議書を作成してください。自宅不動産を自身の単独名義にしたいということであれば、三者間でその合意がはかることさえできれば、可能になります。
しかしながら、何かと話がもつれやすいが遺産の分割。話し合いで決着がつかなければ、裁判所での手続きということになります。
メジャーなものとしては、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てるという方法があります。調停委員と呼ばれる第三者が中立的な立場から当事者の間に入り、話し合いを進めることになります。この話し合いをもって、納得がいく結論に達すればよいのですが、そうならなかった場合は「審判」ということになり、家庭裁判所の判断を待つことになります。
法的な知識を要し、その後の人間関係にも影響を及ぼしやすい遺産問題。もしお困りのことがあれば、お気軽に弁護士にご相談下さい。