法律相談事例
父が亡くなった場合に、実家の借地権を無償返還すべきか
【設問】
私の父は長年、世田谷の実家で一人暮らしをしていました。
そんな父が亡くなり、私が相続人になりました。
現在私は、数年前に購入した国立のマンションで妻と子どもと暮らしており、実家に住むような予定は全くありません。
実家の建物は亡き父の名義でしたが、敷地は地代を納め地主から借りていたものです。
相続人は私の他にいないのですが、この借地権を地主に無償で返却すべきか迷っています。
【回答】
お父様が生前に持っていた借地権は、相続人となったあなたにあります。ですから、無償で返還する必要はありません。ただし、借地権者であることを証明するためには、地上建物がお父様からあなたに相続された旨を登記しておかなければなりません。こちらの手続きは忘れずに行いましょう。
さて、借地権者となったあなたは、今後地代を納めることになります。マンションを購入され、お子様もいらっしゃるとのことですが、その支払いをする余裕はおありでしょうか。もしなければ、次のような方法を取ることもできます。
一つは、借地権を地主に売却するという方法です。国税庁のHPに記載されている路線価図を参考に、更地価格と借地権割合をチェックしてみましょう。これを元に借地権の売値を決めます。ただし、地主に購入の意思がなければ、この方法は難しくなります。地主が売値に納得しないケースも同様です。この方法を取る場合は、地主の意向次第とも言えます。
そこで二つ目に、借地権を地主ではない第三者に売却する、という方法があります。ただしこの場合も、まずは地主の承諾を得ることが必要になってきます。また、承諾を得られれば、承諾料を支払うのが一般的です。それではもし、地主が譲渡を許可しない場合にはどうすればよいのでしょうか。譲渡によって地主が不利になるおそれがないのであれば、裁判を申し立てることができます。譲渡を拒否する地主に代わって、その許可を裁判所に出してもらうのです。この時もやはり承諾料を払うことにはなりますが、地主本人に借地権を購入する意図がない場合には、このような手段を取るのも有効かと思います。
最後に、あなたに所有権が移った土地建物を運用するという方法も考えられます。第三者に建物を賃貸し、賃料を得るのです。得た賃料から地主へ地代を支払うことができれば、借地権の保持によってあなたの負担が増えることもありません。むしろ、余った収入をそのままあなたの収入にすることも可能です。通常、建物の賃料は地代よりも高額となる場合が多いですから、副収入が期待できるのです。建物の賃貸であれば、(地主の承諾を必要とする)借地権の転貸借ではありませんので、地主の承諾も不要です。あなたの意思さえあればできてしまうのが、この方法の魅力といえるでしょう。