法律相談事例
成績不良を理由とする従業員の解雇【労働問題】
【設問】
勤務していた会社を解雇されましたが、納得が出来ません。
勤めていた会社には、「労働能力が劣り、向上の見込みがない」者を解雇するという旨の就業規則がありました。
人事考課は0~10の11段階に分かれており、平均点は5以下になるように調整された相対評価でしたが、今回の人事考課で、評価が3以下の従業員56名が退職勧告を受けました。
私もそのうちの一人でしたが、勤務を続けていました。しかし、就業規則の違反に当たるとして解雇されてしまったのです。どのような対応が考えられますか。
【回答】
1.解雇権の濫用と就業規則の解雇規定
労働契約法で「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められているように、使用者が労働者に対してむやみに解雇を命じることは法律で禁じられています。当然、各会社に設けられた就業規則も、この法律に基づいて考えなければならないものです。したがって、就業規則に書かれた解雇の基準も、労働契約法の水準に合わせて考えなければならないわけです。
2.成績不良を理由とする解雇
では、今回の質問のケースは、労働契約法のいう「解雇権の濫用」にあたるのでしょうか。
質問者の方は、成績が11段階中の4番目ということでした。確かに相対的には「悪いほう」かもしれませんが、それだけで解雇はできません。今回と同じような就業規則が問題となった判例を一つご紹介しましょう。セガ・エンタープライゼズ事件(東京地決平11.10.15労働判例770号34頁)でなされた判断は、「著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないとき」のみに解雇権が行使できるというものでした。単に労働者が「平均的な水準に達していない」というだけでは解雇理由として「不十分」である、としたのです。
この事件の原告は、人事考課で成績下位10%未満に当たることを理由として解雇されています。しかし、そのような相対的な評価で解雇されるということになれば、毎年一定数の従業員が解雇されることにもなりかねませんよね。裁判所は、これが違法であると判断したのです。
今回の解雇も、相対的な人事評価に基づいているようですから、解雇理由としては不十分と言えそうです。ただ、「それだけ」ではない場合は別です。もし質問者の方の勤務態度に問題があったり、それを注意されても一向に改善しなかったり、といった理由があったのならば、解雇理由として十分と認められる可能性もあります。
3.退職勧奨
なお、質問者の方が受けていた「退職勧奨」についてですが、これは「勧奨」に過ぎませんので、その後退職するかどうかは本人の意思次第です。ですから、質問者の方がその勧奨を拒否している(勤務を続けている)ことには全く問題がなかったわけです。むしろ、会社側が執拗に退職を勧めるような行為は、不法行為として認められる場合もあります。労働者が働き続けるか否か、という判断をする上で、自由な意思形成を妨げてしまうからです(下関商業事件、最1小判昭和55.7.10労働判例345号20頁)。
4.まとめ
よって、質問者の方の解雇は、取消を要求できる可能性があります。具体的な手続きを進めたいとお考えであれば、一度弁護士にご相談されるのがよいでしょう。また、同様のケースで退職勧奨を受けているという方がいらっしゃれば、早い段階で弁護士や労働組合に相談してみましょう。